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文法はどの程度理解すればいいのか

~there 構文~

文法は、やみくもに詳しく学習すれば良いというものではありません。英語学習には、その人の学年や現在の英語力に応じた適切な学習の深さがあります。

 

ここでは、文法理解の適切な深度について、there構文を例に考えてみたいと思います。おおよそ以下(a)~(e)知識があれば、中学レベルとしては問題ありません。

(a) be動詞は「存在(いる/ある)」を表す用法がある。

 

(b) 名詞には「特定されているもの」と「特定されていないもの」がある。

 

(c) "特定されている" 名詞:固有名詞・the~・代名詞

  例)John, the book, the many books, they …

    "特定されていない" 名詞:a/an~・無冠詞の名詞

  例)a man, a book, many books, milk, a lot of milk  …

 

(d) 文の形は名詞が "特定されているか"によって使い分ける。

"特定されている名詞" の存在を表す:普通の「S V」の形

"特定されていない名詞" の存在を表す:there構文

 

(e) there構文の基本形

形:there + be動詞 + 名詞 +(場所)

意味:(場所に)~がいる/ある

ポイント:thereは形式主語であり、日本語には訳さない。名詞部分を主語のように訳す。

この程度の知識があれば、以下(1)~(4)のような英作文には問題なく対応できます。

(1) ドアのところに犬がいます。        There is a dog at the door.

(2) その犬がドアのところにいます。      The dog is at the door.

(3) グラスにはたくさんの牛乳が入っています。 There is a lot of milk in the glass.

こうした基本例を正しく区別できることがまず必要な理解である一方で、難易度の高い文章になると(f) のような知識も必要です。以下の(4)のような文は頻繁とは言えませんが、ある程度の頻度で出題されています。

 

(f) 存在や出現を表す自動詞を用いるthere構文

[形] there {存在, 出現}の自動詞 名詞  [意味](場所に)名詞が {存在, 出現}する

(4) 会議の間に、その問題に関する議論が起きた。

There arose a controversy over the issue during the meeting.

 

ゆえに、初学者には(1)~(3)の英作文ができるような指導を、上級者には(4)が訳せるように解説をしています。

 

ちなみに通常の授業であえて扱わないようにしている文もあります。これは、質問を受けたときだけ個別に説明するという方針です。

 

(5) Who is in the room? — There’s John, Bob, and Mary.

   → 相手が知らない情報を伝える場合は、特定された名詞でも there構文が使える。

 

(6) There is the problem of race in the U.S.

   → 一般的な話題では there構文で the 名詞が用いられることがある。

 

(7) There is a man sick. ✖︎ There is a man tall.

   → there構文では、名詞の後ろに一時的な状態を表す形容詞は置けるが、永続的な性質は置けない。

 

これらは、知っているに越したことはありませんが、学習初期に扱うと混乱を招きやすく、効率的ではないと考えているからです。

 

英文法は非常に奥深く、専門的に研究されるほどの分野です。すべての例外を覚えようとすると、膨大な時間がかかります。

 

大切なのは、自分にとって「今、必要な知識は何か」を適切に取捨選択することです。文法コンテンツは世の中にあふれていますが、学習者のレベルに合わない細かい説明や、注目を集めるために過剰に専門的な知識を強調するケースもあります。

 

私は、常にその生徒にとってちょうど良い深さの知識を提供し、実践につながるように意識しています

 

文法は、完璧を目指すよりも「どの程度の理解があれば今の自分に必要十分か」を考えながら、段階的に学んでいくことが重要です。

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